奈良公園を散策すると、静かにたたずむ池が目に入ります。その池は、興福寺の五重塔が水面に映り、季節ごとに美しい表情を見せてくれる「猿沢池(さるさわいけ)」です。
この記事では、猿沢池の名前の由来やその役割、歴史についてご紹介します。
興福寺五重塔が映る「猿沢池」
猿沢池は奈良公園にある周囲360メートルの池で、興福寺の五重塔が水面に映る姿が特に有名です。
その風景美は「奈良八景」にも選ばれ、多くの観光客が足を止めるスポットです。
奈良八景(南都八景)
奈良八景(南都八景)は、奈良の代表的な風景を八つ選んだもので、猿沢池は「猿沢池月」として知られています。
猿沢池月のほかの奈良八景(南都八景)には、佐保川蛍、東大寺鐘、三笠山雪、春日野鹿、南円堂藤、雲居坂雨、轟橋旅人があります。
猿沢池のなりたちと役割
猿沢池が作られたのは西暦749年。
興福寺が行う宗教儀式「放生会(ほうじょうえ)」のための放生池として、人工的に整備されました。
放生会は、捕獲された魚や鳥獣を野に放ち、殺生を戒める仏教儀式です。
このような儀式は中国から日本へ伝わり、興福寺でも長く続けられてきました。
捕まえた魚介を買い、生かしたまま放つ池が放生池なのです。
猿沢池は、ただの景観を楽しむための池ではなく、仏教の教えを実践する重要な場でもあったのです。
猿沢池の名前の由来
猿沢池という名前にはいくつかの説がありますが、有力なもののひとつが、古代インドの「獼猴池(びこうち)」に由来する説です。
獼猴池は「猿池」とも呼ばれ、猿が多く集まる場所だったため、その名がつきました。
また、この池の近くには仏教僧が修行する「精舎」という建物もありました。
興福寺の近くに作られた猿沢池も、仏教的な意味合いを持たせるため、このインドの池になぞらえたとされています。